私たちはウランがなくても生きていける(ナミビアより)

日本では東日本大震災以降、原発へのアレルギーがまだ残っているかと思います。再生可能エネルギーの普及が進んでいるにもかかわらず、欧州ですら「クリーン」なエネルギーと定義している原子力に、日本国内では全くと言っていいほど目が向かないのは違和感がありますが、今日の話とはそれるのでこれ以上は述べないでおきます。

原子力といえばウランになりますが、石油・石炭に代わるクリーンエネルギーを作り出すウランを採掘している国があります(世界で見れば稼働中の原発はいくらでもあります)。World Nuclear Association のサイトによると、2022年に最もウランを産出した国はカザフスタンで、次にカナダ、ナミビア、オーストラリアと続きます。そんな世界第三位のウラン産出国であるナミビアの大臣が、ナミビアでウラン探鉱を行っているロシアの会社に対して発した言葉が、本日のタイトルに繋がります。

「最終的に、私たちは水と食料なしに生きていくことはできないが、石炭とウランがなくても生きていくことができる。」(大臣の発言を意訳)

‘We can live without uranium’
https://www.namibian.com.na/we-can-live-without-uranium/

世界有数のウラン産出国なのに何を今さら、と思われるかもしれませんが、これには理由があります。
それは、上述の会社が所有するウランプロジェクトは、(鉱山が稼働してから)Stampriet Transboundary Aquifer Systemに影響を及ぼしてしまうのではないか、と懸念されているからです。Aquiferは日本語で帯水層を意味します。つまり、この帯水層系及びその地下水が汚染されてしまう可能性があるのです。そしてIGRAC(日本語で直訳すると国際地下水資源評価センター、でしょうか)という組織のwebsite(ttp://www.un-igrac.org/case-study/stampriet-aquifer)によれば、Stampriet Aquiferは主にナミビアに位置しているのですが、ボツワナや南アフリカにも存在しているようです。つまり、何かがあった場合、隣国にも影響が出てしまうかもしれません。

この大臣の発言に反応したかのような以下の記事がありました。

「このリーチング採掘法に対する(地元民への?)訓練と情報が必要」
「(ウラン鉱山を運営している)会社とローカルの住民が上手く共存している」
「リーチングと関連した事故は(会社で運営するロシア及びカザフスタン両国のウラン鉱山で)今まで起きていない」
(本文抜粋のうえ意訳)

Experts allay uranium mining fears
https://www.namibiansun.com/business/experts-allay-uranium-mining-fears2024-07-26126367

唐突にリーチングという言葉が出てきたので、簡単に説明します。
リーチングとは、ウランを含んだ岩石に、(主に酸性の)溶液をたらして岩石を溶かしたうえで、(溶液の中に溶けた)ウランを回収する、という方法です。この手法自体は、銅を回収する時に使われる場合もあり、鉱山での資源回収法として十分確立していると言えます。ウランの場合、作業員の放射線被ばくを考慮する必要があるので、作業員の安全及び最小人数で採掘できる(岩石の溶出に時間はかかるが)という視点から見れば、リーチング法はかなりの利点になるでしょう。欠点は、上でも少し書きましたが、このウランの入った溶液が帯水層に流出してしまって、その帯水層の水を利用して生活している人間や動植物が多大な影響を受けるかもしれない、という点です。

確かに、リーチングの技術そのものは問題ないのかもしれません。別に鉱山会社側から見ても、好んで事故を起こしたいとは考えていないでしょう。重要な点(鉱山を始めるにあたっての懸念点と言ってもいいかもです)は、技術とは他にあると実は考えていて、本当に万が一の事態が起きた時に、「誰が」被害者に対してきちんと説明をするだけではなく適切な補償をする(続けていく)のですか、にあると思っています。最悪の場合、先に登場したロシアの会社が夜逃げした時に(正直その確率は高いと思っています)、ナミビア政府が、自国民及び周辺国に責任を取れるのですか、になってくるのかなと考えています。

このプロジェクトに関する環境調査はこれから実施する予定なので、しばらくは様子見になりますが、またどこかでこの話題は取り上げてみようかなと思います。